Story

活魚だから実現した九州ならではのフレンチ

魚が美味しい福岡だからこそぶつかった壁

ジョルジュマルソー総料理長の小西晃治シェフが福岡市で独立して早々に感じたことは、東京に比べると福岡では、フレンチが受け入れられていないという事実でした。街の居酒屋を訪れてみると、東京では考えられないほど新鮮な刺身を安価に食べることができます。「それに慣れている福岡の人々には、フレンチは複雑すぎるのではないか」。そう感じた小西シェフは、あえて、魚介をメインに据えたフレンチを構想します。刺身や煮付けではない、魚介の新鮮さを生かしたフレンチを目指して、小西シェフの挑戦が始まりました。そして、試行錯誤の甲斐もあり、ジョルジュマルソーでしか味わえない魚料理が生まれました。

届いた新鮮な魚を小西シェフ自らが活き締め

週に2日、朝8時に、レストラン・ジョルジュマルソーの通用口前に、魚介を満載したトラックが到着します。佐賀県唐津市呼子から来た嶋崎鮮魚店のトラックです。送られてくるのはすべて活魚。さっそく、処理が始まります。

レストランでは、小西シェフ自らが、仕入れた魚の活け締めを行っています。「神経抜き」という手法で、実は、小西シェフがレストラン開業前に姪浜漁港に通い詰めて、見よう見まねで身に付けたワザ。その後、活け締めを全国に広げている「魚の伝道師」、上田勝彦さんにお墨付きをもらい、その技術の確かさは証明されました。

魚がストレスを感じると、うま味の素となる物質が減少してしまいます。 そこで、届いた魚は一度水槽の中に入れて落ち着かせます。それから、血抜きを行います。 レストランの魚に生臭さを感じないのは、血抜きを丁寧に行っているからです。 そして、魚の鼻腔からワイヤーを入れ、脊椎の神経を抜きます。 これによって、長い間、鮮度の高い状態を保つ事ができ、熟成することが可能になります。

フレンチの技によって熟成した魚のうま味を活かす

「神経抜きは、魚の死後硬直を遅らせる効果があります。そのおかげで、魚のうま味成分が熟成しながらゆっくりと上がってくるのです」と小西シェフ。活き締めを施した魚は、2℃の低温で保存しますが、日にちを経ても美味しく食べられるそうです。

そして、日がたつにつれて、魚のもつ味わいは変化していきます。たとえば、締めた当日や翌日は、魚の身がプリプリしているので、カルパッチョに料理。これが3日目になると熟成が進みうま味が強くなってくるので、グリルした方が美味しくいただけます。アラ(クエ)のような大きな魚も、熟成させることによって、余すことなく身を料理に使っています。

「フレンチはソースが主役で、素材の味は二の次」そんな印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、レストラン・ジョルジュマルソーは、素材の味もしっかりと活かした料理をお出ししています。その代表格がここで紹介した魚料理なのです。

熟成した魚のうま味と、小西シェフの熟達した技術によるソースが調和した料理をお召し上がりいただければ、きっとそれを実感していただけるでしょう。

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